医薬学書出版 洋學社

大還暦考―120歳までしなやかに美しく生きるには―

 

著 者

井上 信孝 (神戸労災病院 副院長)

発行年

2017年9月

分 類

一般/医学

仕 様

四六判/総頁数/180/本文163

定 価

(本体 1,300円+税)

ISBN

978-4-908296-08-6

 

 

序  文

 

 我が国は、これまで誰も経験したことのない、超高齢化・少子化社会を迎えようとしています。私は以前、神戸労災病院が主催する市民講座で「百二十歳までしなやかに、美しく生きるには」との題名で講演をしました。その講演では、日々診察室で高齢者の患者さんを診させて頂くなか、健康で長生きする術を私なりに考えたものをお伝えしました。そしてそれは、もうすぐ還暦になる私自身に対する戒めを込めたものでもありました。

 百二十歳のことを大還暦と呼びます。いかにして、元気で若々しい心身を保つかは、古代からの永遠のテーマです。人間は何歳まで生きれるか? 寿命を決定するものは何か? この命題に対して多くの科学者が取り組んでいます。細胞分裂を規定するテロメアという染色体の一部によって決まるという説、また経年的に弱っていく腎臓の働きによって規定されるという説、いろいろな考え方が提唱されています。

 現在の長寿の世界記録保持者は、フランスのジャンヌ・カルマンさんです。彼女は百二十二歳百六十四日のいきいきとした生涯を全うされました。一方、一九〇〇年(明治三十三年)鹿児島県大島郡生まれの田島ナビさんは百十六歳の現在もご健在です。七男二女を育てられ、やしゃごの子を含めると約百四十人の血縁の方がおられるそうです。百歳以上の方をセンテナリアンといいますが、日本には、元気なセンテナリアンの方がたくさんおられます。こうした方の健康の秘訣とは何なのでしょうか。健康長寿の方にはいくつかのことが共通しているのではと思っています。まず、家族に囲まれて生活をされている。また何かをしようを前向きである。そんな印象があります。

 健康な生活を享受するために、医療は重要です。現在の医療は、イービーエム(EBM)に基づいて行われています。EBMって? 聞きなれない言葉かと思いますが、EBM(Evidence-Based Medicine)とは、「科学的な根拠」に基づいた医療のことをいいます。

 少し説明します。例えば、検診で血圧が高いことを指摘され、診療所を受診したと想像してください。診療室で医者の診察を受け、これまでの検診結果や今の状況を説明したあと、その医者はどうするでしょうか? 「少し様子をみましょう」となるか、「それではこの薬を飲んでくださいね」と処方箋を渡されるか。もちろん、それぞれの各自の状況によって違います。高血圧の患者さんに、まずどういう対応をするべきか、降圧剤を投与する必要があるのかないのか、薬が必要であれば、どのような薬を使うべきか。こうした判断は、臨床研究に基づいた治療指針によってなされます。高血圧治療に関して、これまで多くの先人達によりたくさんの臨床研究がなされています。こうした結果を専門家が吟味し、議論し、何がベストかというコンセンサスが形成され、医師がすべき治療方針が決定されます。こうして臨床研究によってしっかり裏打ちされた治療指針に従って診療することを、イービーエム(EBM)に基づいた医療といいます。

 ですので臨床研究というのは、医療にとって極めて大切なわけです。しかし、一口に臨床研究といっても信頼性が高い優れた研究から、これはちょっと・・・と思いたくなるような研究まで様々です。大規模な研究で、信頼性のある臨床研究に基づくものであれば、その医療行為の推奨度が高くなります。科学的に杜撰な研究もたくさんあります。キャッチーで一般受けする結論をひねり出したような研究も多くあります。さらにそうした結果がマスコミによってさらに増長され、誤った認識を社会にもたらすこともしばしばです。

最近も某有名大学の研究結果の捏造が明らかになりました。また製薬会社とのズブズブの関係で行われた不正な臨床研究も報道されています。こうした不正な研究は、いち研究者の問題にとどまらず、医療の根本をゆるがす大問題なわけです。医療に身を置くものの一人として、本書では、EBMに基づかないことに関しては、明確に推奨しないスタンスで、この本は書いています。

 巷に、「サプリメントXで、血がサラサラ!」とか「XX健康食品で、足腰ピンピン!」などの広告が氾濫していますが、そのほとんどは、科学的な根拠のないものばかりです。まれに研究結果らしきものを示して宣伝しているものもありますが、どれも稚拙な研究ばかりです。またテレビコマーシャルとか、はやりの健康本をみてみると、「それは、ないでしょう」と、ツッコミを入れたくなる記述もたくさんあります。本書では、こうした記述は行いません。大還暦を目指すにあたり、何が問題点として議論されているかを述べていくなかでしなやかに、美しく生きていく術を考えていきたいと思います。

 

 

                          2017年9月 著者

 

 

 

目  次

 

第一章 高齢化社会を迎えて ―健康の達人から学ぶ―

●1―1 健康の達人たち

●1―2 チャレンジ精神が旺盛な人は長生きする

●1―3 食少なく、命長らえ

●1―4 長寿国日本 ―国の豊かさと長寿との深〜い関係―

 

第二章 人が寝たきりになっていく過程

●2―1 平均寿命と健康寿命のギャップ

●2―2 健康寿命の延長のキーワード フレイルとサルコペニアとは?

●2―3 横断歩道を余裕をもって渡りきれるかが一つの目安

●2―4 サルコペニアとフレイルとの関係

●2―5 若い脳と老いた脳の違い

●2―6 フレイルやサルコペニアを防ぐには ―運動は脳を守る!―

●2―7 認知症と骨格筋・身体機能との関係 ―筋トレは脳トレ―

●2―8 元気な高齢者が日本を救う

 

第三章 老いに伴う様々な問題

●3―1 老いに伴う喪失 ―老化と抑うつについて―

●3―2 独居と孤食

●3―3 独居ストレスと主人在宅ストレス症候群 ―亭主は元気で留守がいいのか?―

●3―4 高齢者医療の問題点

 

第四章 脳卒中と心臓病克服の重要性

●4―1 脳卒中と心臓病

●4―2 心筋梗塞の病気の本態は血管にある

●4―3 心臓を栄養する血管・冠動脈を調べる方法

      ―低侵襲化の流れ 人に優しい医療を―

●4―4 急性心筋梗塞の治療の進歩と多職種連携の心臓リハビリテーション

●4―5 脳卒中も「血管」の病気です

●4―6 脳梗塞の要因 心房細動という不整脈

●4―7 脳梗塞の予防 ―まずは検脈してみよう―

●4―8 大動脈が破裂する恐ろしい病気 ―大動脈瘤―

 

第五章 血管の老い ―動脈硬化―

●5―1 人は血管とともに老いる

●5―2 動脈硬化が原因で生じる病気は古代からあった

●5―3 動脈硬化の成り立ち

      ―はじめの第一歩は血管の内面を覆う血管内皮が傷むこと―

●5―4 動脈硬化の進展には酸化ストレスが関係している

●5―5 悪玉コレステロールLDLがさらに凶悪化した酸化LDL

●5―6 凶悪化した超悪玉コレステロール ―酸化LDLの担い手 LOX―1―

●5―7 LOX―INDEX(ロックスインデックス)

      ―脳心血管病の発症を予知する血液検査―

●5―8 抗酸化剤は心臓病・脳卒中を予防する夢の薬か?

 

第六章 こころ ― ハート ― 心臓

●6―1 精神的ストレスと心臓病の深い繋がり

●6―2 自然災害と心臓病

●6―3 サッカーは心臓に悪い?

●6―4 白衣高血圧・仮面高血圧のこと

●6―5 ストレスと過労死 ―KAROSHI・・・―

●6―6 新たに始まったストレスチェックに対する期待

●6―7 蛸壺のような心臓になってしまうタコツボ心筋症と精神的ストレス

 

第七章 血管の老いを防ぐには

●7―1 百二十歳まで、しなやかに生きるには?

●7―2 煙草は血管を傷める危険な因子

      ―高騰する医療費削減の秘策 煙草の値上げ―

●7―3 胎児環境が大切! お母さんのお腹のなかで既に肥満になるか運命づけられる

●7―4 「うんこ」と「肥満」の密接な関係 ―デブ菌・痩せ菌の存在の可能性―

●7―5 メタボリック症候群 メタボ検診の問題点

●7―6 脂質異常症の話

●7―7 日本人の高血圧の特徴 ―塩分感受性高血圧―

 

第八章 まずは、体を動かしましょう

●8―1 ウォーキングやジョギングの話

●8―2 ジョギングは瞑想である

●8―3 ノリで参加するフルマラソン挑戦は危険!

 

第九章 健やかに長生きするには

●9―1 自分が若いと思うと長生きする

●9―2 年を重ねることを肯定的に考えている人は健康的

●9―3 百二十歳まで元気に、健やかに大還暦を迎えるには、どのようにしたらいいので

      しょうか

 

     参考文献

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