<序文より抜粋>
改訂第5 版序文
2016 年11 月に初版として発行した自著「医師事務作業補助者のための32 時間教本~くりかえし読んでほしい解説書~」も,今回で第5 版への改訂となります。当初は2 年ごとの診療報酬改定に合わせて執筆するということなどは考えてもいなかったのですが,著者の想定以上に読者からの高い評価が得られているようで大変嬉しく思います。
思えば,2012 年4 月に大学病院で電子カルテを導入した際に,医療クラークの採用が必要であろうと考え,12 名ほどの派遣職員の教育に携わったことが自分自身の原点になっています。当時は,2008 年に新設された「医師事務作業補助体制加算」も大学病院( 特定機能病院)では算定対象となっていなかったので,独自に当該職員向けの学習カリキュラムを策定し試行錯誤的な教育指導等にあたっていました。その後,日本医療秘書実務学会からお声がけがあり当該領域の先駆者達とつながることができ,静岡県医師会での「静岡県の医療クラークを育てる会」の立ち上げなどを通じて,個人的にもさまざまな知識の習得とスキルアップを図っていきました。2016 年4月には特定機能病院でも医師事務作業補助者体制加算が算定可能になりましたが,その頃にはすでに多くのノウハウを有していたこともあり,本書の出版社である洋學社からの執筆提案にもあまり躊躇することなく同意したことを覚えています。
そのように,著者と医師事務作業補助者とのかかわりは12 年になりますが,その間に当該職種の社会環境は大きく変わっていきました。とくに,2024 年4 月から本格的に動き出した「医師の働き方改革( 医師の時間外労働規制)」への支援対応として,医師事務作業補助者によるタスク・シフト/シェアへの期待感は経年的に高まっています。その一方で,医師事務作業補助体制加算の算定点数は経年的に漸増してきたものの,2022 年度の診療報酬改定では「実務経験が3 年以上ある医師事務作業補助者」を高く評価するという方向性が示され,当該職種の量的確保だけでなく質的担保も必要であるというメッセージが発せられました。ちなみに,今回( 2024 年度)の診療報酬改定では医療機関で働く職員の賃上げ問題が話題になっていますが,もともと非常勤採用等で待遇・処遇などが必ずしも良くない医師事務作業補助者においては,賃上げ以上に,当該業務に今後も携わっていくためのモチベーションとして「自身の成長実感」が最も重要ではないかと個人的に思っています。
医師事務作業補助体制加算の施設基準に記載のある「32 時間研修」に関しては,当初から医療関連団体の研修企画が数多くありましたが,最近はより多くの民間企業が参画し価格競争にもなっている印象があります。本書では,初版から一貫して32 章からなる本文構成を維持してきましたが,もともと32 時間かけて本書で学習すれば施設基準を満たせますという安易な意図で執筆したわけではありません。実際,表題( 副題)に「くりかえし読んでほしい解説書」とあるように,日常業務のなかで何度も本書を読み返しながら,必要時には他のテキストやガイドラインなども参考にして,自身の知識をより高めていってほしいという願いがあります。有資格者がきわめて多い医療機関において,無資格者である医師事務作業補助者の成長実感は継続的な生涯学習でしか得られません。今回の改訂版においても,本書が医師事務作業補助者ならびに当該職種にかかわる方々のバイブル的なテキストとして位置づけられることを切に願っています。