<序文より>
医師の時間外労働規制が本格的に始まった2024年4月以降,現行制度のもと,医師でなくても実施可能な業務を他の医療関係職にタスク・シフト/シェアしていく流れが強化されつつある。一方,2008 年に診療報酬制度の中で新設された「医師事務作業補助体制加算」はすでに16年目を迎え,2022年度の診療報酬改定では,加算点数の増加とともに「3年以上の経験がある医師事務作業補者が配置区分ごとに5割以上配置されていること」を高く評価するという意味深な施設基準へと文書内容が変更された。これまで医師事務作業補助体制加算では,①診断書等の文書作成補助,②診療記録への代行入力,③医療の質の向上に資する事務作業(診療に関するデータ整理,院内がん登録等の統計・調査,教育や研修・カンファレンスのための準備作業等),④入院時の案内等の病棟における患者対応業務及び行政上の業務(救急医療情報システムへの入力,感染症サーベイランス事業に係る入力等)が基本的4業務として位置づけられてきたが,そのなかでも①→②→③→④の順で実施率には大きな差があることが知られている。また,実務者のなかでは,診断書等の文書作成補助に関して,医療文書の違いにより作成支援の難易度に大きな差があることも認識されている。
医師の働き方改革の支援に向け2021年9月30日に出された医政局通知には,「必ずしも医師が行う必要はなく,看護師その他の医療関係職種のほか,医師事務作業補助者(『医師の指示で事務作業の補助を行う事務に従事する者』をいう)等の事務職員が行うことも可能である」とした7業務(表1)が示されている。その中には医療関連文書の代行記載(代行入力)業務がいくつか含まれているが,入職1 年目の医師事務作業補助者でも実施可能であるものから,一定の教育や研修等を受けないと文書作成の支援が困難なものまである。
本書では,医師事務作業補助者による代行記載が期待される医療文書に関して,代表的なものをいくつか取り上げ実践に即した解説を行うこととする。具体的には,当該文書の必要性を含む制度設計の概要から,医師事務作業補助者が代行記載する際に知っておくべき事項と各種規則,そして実際の代行記載(代行入力)時のコツやポイントなどを解説していく。
診療現場におけるOJT(On the Job Training)では「習うより慣れよ」という教育手法がよくとられているが,医療文書の代行記載に関しては,事前に一定程度の知識を習得しておくとともに,マニュアル的なテキストが存在すれば,よりすみやかにかつ適切な医療文書作成が行えるものと考える。本書を通じて,1~2年目の医師事務作業補助者だけでなく,3年目以上の指導者クラスに対しても,医療文書記載にかかわる実務および教育面で有用な知見が提供できれば幸いである。