統合失調症は原因不明の精神疾患です。現在のところ、統合失調症は遺伝的素因に起因する脳の器質性疾患(脳の病気)で、ストレスをきっかけに発症することはわかっていますが、それ以上のことは十分には解明されていません。また、統合失調症では症状として感覚や思考の異常が見られ、心の病気であるとも言えます。ゆえに、現代医学では、統合失調症は、根治療法が確立されていない脳の病気であり、かつ心の病気でもあると言え、長期間継続して治療を進めていかなければならない病気であると言えるでしょう。
したがって、統合失調症の治療では、脳の病気の側面からは根治療法と言えないまでも薬物療法の効果が期待されますが、同時に心の病気の側面からは心理社会療法が重要となると考えられます。
統合失調症の薬物療法は、1950年代から実施可能となっていますが、近年、特に新しいタイプの抗精神病薬が次々と使用できるようになってきていますので、薬物治療の幅が広がるとともに以前と比べて良い効果が期待できるようになっています。このようなことを背景に、精神科医師は、薬物治療に興味を持ち、その効果に多くを期待するようになっている傾向が増していると言えるでしょう。
一方、心理社会療法は、最近ようやく注目を浴びるようになってきてはいますが、いくつか心理社会療法としての治療法がある中で、何が効果的な治療法であるかについてのコンセンサスは未だ得られておらず、広く臨床で活用できるようにはなっていません。精神科医師によって心理社会療法が薬物療法ほど行われていない理由には、他にもあると思われます。その1つには、心理社会療法の薬物療法との関係が、精神科医師に十分に理解されていないということがあげられます。つまり、精神科医師は、薬物療法と心理社会療法は、別個に行えばそれぞれの治療効果が得られ、精神科医師は薬物療法を行い、心理社会療法はコメディカルスタッフが行うものだと誤解しているのであろうと思われます。
大事なことは、薬物療法と心理社会療法は、それぞれを別個に行えばよいのではなく、精神科医師が中心となって同時に行われることで2つの治療法が相互に補完し合い、共により一層適切な治療内容となり大きな治療効果をもたらすということです。
また、統合失調症は、先程述べましたように慢性の病気であることから、今ここの治療だけで終わることはあり得ません。したがって、急性期の治療については、急性期だけの治療を考えるのではなく、安定期・回復期の治療までを見通しての急性期の治療を考え行っていく必要があるということになります。
さらに、患者の治療態度も治療の成否を左右する因子となりますので、精神科医師は患者の主体的な治療参加を促して、患者が治療の主人公になれるように指導していく必要があります。
以上から、精神科医師は、薬理、心理、社会という様々な視点からの治療法を統合した適切な医療を長期間にわたって患者に提供しつつ、患者が統合失調症という病気に負けることなく自身の人生を大事に生きていけるようになるための伴走者として、患者と相談をしながら、その時々の効果的な統合失調症治療を展開していく必要があります。このあたりのことが、患者や家族から見れば現在の精神科医療で十分には実施されておらず不満に感じられるところであり、精神科医師に“いま求められる”ことであろうと思います。
本書では、患者を中心とした適切な統合失調症治療を行ううえで必須な、面接、薬物療法と心理社会療法における重要点と実施上の要領について、精神科医師を始めとする精神医療関係者の方々に俯瞰して理解していただけるように「いま求められる統合失調症診療の進め方」として私の診療経験を紹介しながらわかりやすくまとめましたので、お読みいただき、今後の診療に生かしていただければと思います。