私(大澤)が関節リウマチにかかわったきっかけは越智隆弘先生に「整形外科でリウマチをしないか,全身の関節が診られるよ」と学生時代に誘われたことである。1979 年当時はリウマチの治療は困難で症状を和らげることがやっとであった。そのため寝たきりになる患者も多く,温泉病院での療養が治療の多くを占めていた。そこでのX 線学的研究成果が越智先生のリウマチ分類に生かされている。
その当時,リウマチの大家であった七川歓次先生が中心となりSwezey 先生が著した「Essential therapies for joint, soft tissue, and disc disorders, 1988」を翻訳し日本に導入された。その頃,私はリウマチの基礎研究を行っており,その後,リウマチ医,リハビリテーション医となった。リハビリテーション医療を実践することで,邦訳書「リウマチ病のリハビリテーション」は現在にも通じる良書であることが理解できた。
しかし,Swezey 先生の著作から30 年が経過し,その間に関節リウマチの治療はパラダイムシフトした。さらに脊椎関節炎( SpA)の概念も確立されてきた。そもそもrheumatoid arthritis( RA)の日本語訳は,その当時は慢性関節リウマチであった。この30 年間に慢性が外れ,メトトレキサート( MTX)を中心とする治療に変わり,さらに生物学的製剤の登場で治療方針がまったく変わったのである。そして,この間にRA のリハビリテーションに関する研究も多数報告されてきた。そのため,近年の概念,および研究成果を取り入れたリハビリテーションの解説書が渇望される。しかしながら,リウマチ病のリハビリテーション医療の基本は30 年前とは大きく変化はしていないので,Swezey 先生の著書の基本的精神を学び,私の少ない経験と文献的検索から,この度,あらたにリウマチのリハビリテーション医療についてまとめてみた。
Swezey 先生が推奨するマッサージ,鍼,徒手療法など一度も勉強したことのない分野に対してはあらためて原著や関連書にあたり,近年のコクランレビューなど客観的なメタ解析の結果を参考にした。そして,現代のリハビリテーション医療における補完的療法の役割についても記した。近年のRA の治療と脊椎関節炎,さらに,サルコペニアの概念,分泌器官としての筋肉の役割にも言及したい。これからのリウマチ・リハビリテーションの発展を担う若手医師の意見も入れ,共著者とした。
本書によって生じる問題についてはすべて著者の責になるため読者諸氏のご意見を賜りたい。また,用語はリハビリテーション医学・医療用語集第8 版などを参考にした。本書は図表が多く,一般の方にも理解していただけると考えている。患者さんへの指導箋として使用していただき,実際のリウマチ治療の現場でお役に立つことができれば幸甚である。