現在,日本人の就職者に占める医療介護関係職の割合は10%を超えています。その中には,医師や歯科医師,看護師などのように,患者さんの治療やケア等に直接あたる医療専門職だけでなく,その種の業務をサポートする医療事務職員が含まれています。しかし,本書の中でも述べていますが,一般の事務職員は専門資格等を有していないことから,医療機関という特殊な職場環境に戸惑うことも少なくなく,自身のキャリアデザインが描きにくいとされています。そこで,本書では,病院やクリニックなどで事務職員として初めて働くことになった人や,これから働くことを考えている人たちを対象に,医療機関の仕組みや,そこで行われている具体的業務をわかりやすく解説することを目指しました。「道標(みちしるべ)」という副題は,皆さんが不慣れな場所(職場)でも道に迷わずスムーズに歩んでいけるように,「標識」を示しつつ導いてあげたいという私の想いを表しています。
医療機関には,500~1,000床近い大規模病院から病床を全く持たない無床診療所(クリニック)まで存在し,組織形態や求められる機能などもさまざまです。また,同じ機能を担う医療機関でも,組織内の部門・部署等の名称が異なることは珍しくありません。本書では,なるべく一般的な呼び名で部門・部署等の名称を記しましたが,皆さんがこれから働こうとする医療機関において,それらの名称が異なっている際は柔軟に解釈してください。なお,本書では,500床規模の基幹病院を想定し,医療事務部門の組織体制や諸機能,ならびに具体的な業務等について解説しました。中小規模の病院やクリニックなどでは,一人の事務職員がいくつもの役職や業務を兼任することが珍しくありませんので,そのあたりもふまえた現実的解釈のもとご理解いただければ幸いです。
本書の構成ですが,第1章に,医療事務に関連する全般的な組織体制(組織形態)について書きました。最初にここを読んでいただき,事務部門の全体像がつかめれば良いかと思います。医療機関に実際存在する部門・部署等の具体的業務は,第7章から第17章にまとめました。また,私の個人的な想いとして,第6章「教育と研修」と最終章(第20章)「病院事務職員として永く働くために」には熱いメッセージを添えました。いずれにせよ,全体を通して,医療機関(病院)で今後働くために必要な知識等は網羅したつもりです。さらに,各章の最後には,「コラム」として関連する話題をつけておきましたので,併せてご覧いただければ幸いです。
さいごに,執筆者である私が「医師」だから言うわけではありませんが,医療機関は本当に素晴らしい職場だと思います。当初は慣れない環境のもと辛いことがあるかもしれませんが,永く働いて,日本の医療に是非とも貢献していただけることを願っています。