皆さんはIPW(Interprofessional Work)という言葉をご存知でしょうか? 広義では文字どおり専門職種がさまざまな領域で協働(作業)することを意味しますが,最近は「医療・介護・福祉などにかかわる専門職種が臨床現場や地域等において,それぞれの技術と役割を駆使して共通目的の達成を目指す連携協働」という狭義の解釈が一般的になされています。いいかえれば,医療現場において実践されている「チーム医療」や,地域包括ケアシステムの構築に向けて重要視される「多職種間協働」のような行動対応がIPW そのものだと考えます。本書では医療従事者がIPW を実践するための知識やスキル等を「行動規範」として位置づけ解説していくつもりですが,医療機関には数多くの職員が働いておりその捉え方はさまざまだと思います。実際,医師や看護師など医療専門職の多くは,自らの専門領域に特化した思考や行動を取りやすく,ときとして他者に対して排他的ともなる(サイロ化する)傾向があります。しかし,医療専門職のような有資格者であっても,自身の専門領域での成長のみで組織(医療機関)から高く評価され続けることは難しく,個人ではなく組織人として成熟するための教育や実践経験が求められることはよくあります。ちなみに,本書の副題に「組織人としてワンランク上を目指すために」と付記した理由は,IPW の実践に向けて必要とされる行動規範こそが,医療専門職には「ノンテクニカルスキル」として思いのほか重要であることを示したかったからです。
一方,医療・介護・福祉等の分野には一般事務職員も少なからずかかわっており,本来であれば組織の一員として医療専門職と対等に議論や意見交換などをすべきです。しかし,周りで働く医療専門職に比べると,専門資格等を有していないことなどから,一般事務職員の組織全体への貢献度はやや低いようにも思えます。著者はこれまで医師事務作業補助者を中心に,医療機関に属する事務職員が自信( 誇り)をもって働いていくための教育や指導等に努めてきました。本書においてもその趣意は同様であり,一般事務職員が医療専門職との各種議論の中で,正しいと思ったことを積極的に発言・発信するためのノウハウやスキルなどを本書では提供しています。先に「医療専門職におけるノンテクニカルスキル」と表現したIPW の実践に向けた行動規範が,実は,一般事務職員にとっても重要なマネジメントスキル(事務職スキル)であることを本書を通じて伝えたいと思います。
いずれにせよ,医療機関には職位のほか職種によるヒエラルキー構造がありますので,上位の立場にいる医師や看護師等からの歩み寄りが大切だと考えます。そのような意味では,医療専門職を目指す複数領域の学生に対して,近年,卒前教育の中で多職種連携教育( Interprofessional Education:IPE)を取り入れている大学が増えていることは望ましく思えます。本書を通じて,医療機関における一般事務職を含む医療従事者が,個人としての成長のみならず,組織人としてのあり方を再確認する機会にでもなれば著者としては嬉しいかぎりです。