エッセイ「午後の医局」(永井書店、平成二十年)を発刊してからすでに八年が過ぎました。早いものです。医者としてそれまで経験してきた日々のちょっとした事をまとめて出版してもらったことは自分にとって一つの区切りになった気がしました。それからも暇にまかせて書いていましたが、たいした量じゃないと思っていたのが、想像に反してこれがなかなかの量になっていました。
出身地のローカル新聞の年始の挨拶に書いている短いエッセイも、医師会関連雑誌や医薬系雑誌に時々投稿したり依頼されて執筆した医療エッセイも、探すといろいろ出てきました。せっかくだから、またまた性懲りもなく、ここに来て一冊の書にまとめてみたいと思い立ったのが運の尽きでした。
一冊の本のまとめるにあたって、通読しても違和感のないように、バラバラに、適当に書いた内容を加筆、削除、修正を繰り返しながら整えましたが、相当の時間を要してしまいました。いつごろ書いたものかわからないものは当時のままの文章(たとえば、〝昨年の夏に〟という記述があってもいつだったか思い出せない)にしました。
いくつかの読み切り小説的エッセイがあります。少し文章のタッチを変えるために邑田尚也という架空の医師を登場させています。「第一章 木漏れ日の診察室」に収録したものは、私の患者さんの発した一言を想像たくましくして百倍ほどのボリュームの内容にふくらませた創作と、何人もの患者さんのほんの小さなエピソードをいくつもつなぎ合わせ、ひとまとめにして、ひとりの主人公に仕上げた内容もあります。その様相はばらばらですが、一つ一つの物語がなんとかまとまるように工夫しました。病院の現場の物語はほとんど創作ですが、私の診療現場の様子がなんとなく見えてくるようなものになったかもしれません。少し長くなった項目は、物語の構想、主人公の人物像の想定など何度も書き直しながら仕上げました。ご笑読ください。
本書の内容がひとつもおもしろくなかったという落胆を読者に抱かせてしまうこと、読んでみたが時間の無駄だったという叱責を覚悟で収載していますことを、始めにお詫びしておきます。心の弱い医師が右往左往しながら医療現場で働く姿や、晴れの日も雨の日もある日々の暮らしでの小さな笑いや涙や驚きの様子を知っていただき、読者の人生の参考にしてもらえれば望外の喜びです。